東京高等裁判所 昭和47年(行ケ)102号 判決
一 前掲請求の原因のうち、本願発明につき、出願から審決の成立にいたるまでの特許庁における手続、発明の要旨及び審決の理由に関する事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、右審決に原告主張の取消事由があるか否かについて考察する。引用例に審決認定の記載があること並びに本願発明と引用例のものとの間に屑材料(屑板)の剪断装置として構成上審決認定の一致点及び相違点((a)ないし(c))があることは当事者間に争いがない。
したがつて、右審決の当否は右相違点の技術的評価にかかつている。
(相違点(a)について)
1 一般に屑材料(屑板)の剪断装置において材料の送り方向を、右相違点(a)のように主要な剪断刃の剪断縁に対して平行とするか、直角とするかは屑材料の大きさ、用途等に応じて適宜選定される事項であるということができるから、本願発明と引用例のものとのこの点の相違は、それだけでは、技術上格別の意義を認め難いが、本願発明において材料の送り方向を主刃及び副刃の剪断縁に対し直角とした構成は、後記のように他の構成と結合されることにより、独自の作用効果を奏するものであるから、少くともその意味で評価に値する。
(同(b)について)
2 本願発明において、主刃の傾斜した剪断縁が段を境にして同一方向に傾斜した少くとも二つの部分からなるように剪断縁を二つ以上に分けた構成(引用例のものとの相違点(b)のうち)は、もとよりこれにより一時に二つ以上の切断片を出すことを意図したものと推量されるが、成立に争いのない甲第二、三号証(本願明細書及び図面)によると、それだけでなく、剪断縁の全長及び傾斜角度が同一で単一の剪断縁であるものに比して、主刃のストロークをはるかに小さくすることができる(剪断縁の段によつて分けられた個数をnとすれば、そのストロークは単一の剪断縁の場合の約<省略>になる。)ことが認められる。したがつて、本願発明は、そのような主刃の剪断縁の構成により、これについて限定のない引用例と対比すれば、主刃の占有空間を小さくし、剪断装置全体を小型化するという格別の効果があるものといわなければならない。
また、本願発明は、前記のように材料が主刃及び副刃の剪断縁と直角の方向に送られ(引用例のものとの相違点(a))、一対の補助刃の一つを主刃に設けた段に取付け、他をこれに対応させて副刃に取付ける(引用例のものとの相違点(b)のうち)構成であるが、前出甲第二、三号証によれば、その作用として、材料は、主刃及び副刃により、その直角の方向から送られて剪断されるとともに、常に主刃及び副刃の切込と同時に開始される補助刃の分断作動により右の剪断と直交する方向において、二個以上に分断されるものであることが認められる。これに対し、引用例のものにおいては、前記のように材料(耳付鈑)が上刃及び下刃の剪断縁と平行の方向に送られる構成であり(本願発明との相違点(a))、また、上刃及び下刃の剪断縁茲びに補助刃について本願発明の構成のような限定がなく(相違点(b))、成立に争いのない甲第四号証(引用例)によると、一対の刃片(本願発明の補助刃に相当)が、材料の送り方向から見て、上刃及び下刃の先方に配置されているため、まず、上刃及び下刃により、耳付鈑の耳状片をある程度の長さの帯状に剪断した後でなければ、刃片による耳状片の分断が開始されないものであることが認められる。したがつて、本願発明は、審決のいうように、単に「切断刃を一対として同一平面内において少くとも二つ以上直列的に結合した」ものと異り、右(a)及び(b)の構成を関連させることにより、材料の直交する二方向の剪断を常に同時に行わせようとしたものというべきであつて、かような技術的思想は引用例に見出すことができない。
(同(c)について)
3 前出甲第二、三号証によれば、本願明細書中、発明の詳細な説明には、本願発明において、副刃に設けた補助刃の剪断縁が副刃の剪断縁と同じ高さに位置すると、主刃の傾斜した剪断縁の最上端が副刃の剪断縁と係合する位置まで下降して剪断を完了する障害となるので、これを回避するため右補助刃の剪断縁を副刃の剪断縁より僅かだけ下方にずらすように位置させる構成(引用例のものとの相違点(c))を取り入れたものである旨の記載があることが認められるとともに、本願発明が前記(a)、(b)の構成によつて意図した主刃、副刃間及び上下一対の補助刃間の切断作動による材料の直交する二方向の同時剪断が主刃の剪断の完了を前提とするものであることは多言を要しないところであるから、本願発明における下の補助刃の剪断縁の位置に関する構成は、直接的には主刃の剪断を完了させる作用を営み、これにより終局の目的たる材料の右のような同時剪断を可能とするものであつて、不可欠の要件として規定されたものと解するのが相当である。被告は、本願明細書の前掲記載を根拠に、そのような構成の限定は材料を完全に切断する手段にすぎない旨を主張するが、右構成の目的をそのように限局する解釈にはにわかに左袒することができない。
一方、引用例のものにおいては、さきに認定のとおり、まず上刃及び下刃により耳付鈑の耳状片が剪断された後、刃片により耳状片が分断されるため、構成上、下の刃片と下刃との剪断縁の距離を特に按配する必要がなく、したがつて、これを限定していない(本願発明との相違点(c))ものと考えられる。
してみれば、本願発明のこの点の構成は、審決のいうように、当業者が必要に応じて採用できる事項にすぎないものとすることはできない。
以上の次第で、本願発明と引用例のものとの間に存する構成上の相違は両者の技術思想及び作用効果における格別な差異に結び付くものであるから、これを看過して本願発明の進歩性を否定しその出願を拒絶すべきものとした審決の判断は誤りというべきであつて、審決は違法たるを免れない。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容する。